病態と診断
A. 病態
高齢の2型糖尿病患者が、感染症、手術、高カロリー輸液、ステロイド薬投与などを契機に発症することが多い。従来、非ケトン性昏睡と呼ばれていたが、ケトーシスを伴い昏睡を呈さないこともあるため現在はこの呼称が用いられている。著明な高血糖と高度の脱水により循環不全を呈した状態であるが、著しいアシドーシスは認めない。
B. 診断
通常、血糖値は600mg/dL以上で血漿浸透圧は350 mOsm/kgH2O以上であるが、これ以下でも否定はできない。尿ケトンは-~+で、血液のpHは7.3~7.4程度である。症状は非特異的で、循環虚脱や高浸透圧血症による意識障害、痙攣を生じることがある。発症以前には糖尿病と診断されていない場合もある。
治療方針
A. 初期治療
十分な輸液とインスリンの適切な投与による脱水と電解質の補正を目指す。生理食塩水を 500 mL/hrで開始し、まず少なくとも1Lを投与する。循環動態が安定したら血清Naの補正値を計算し(補正Na = 実測Na+(血糖値-200)/100×2)、正常~高値であれば1/2生理食塩液に変更し、200~400 ml/hrで投与する。高齢者では心機能に注意し、輸液量は適宜減量する。また、インスリンを0.1単位/kg/hrで持続静注する。急激な血糖値の低下は脳浮腫の原因となるので、1時間に100mg/dL程度の低下速度となるようインスリン投与量を適宜増減する。血糖値は1時間ごと、電解質は2~4時間ごとにチェックする。低K血症に注意し、血清Kが4.5 mEq/L以下であれば20 mEq/L、3.5 mEq/L以下であれば40 mEq/Lとなるよう輸液内にKCL液を追加する。
B. 維持輸液への変更
血糖値が250~300 mg/dLとなったらブドウ糖入りの維持輸液に変更する。血糖値を2~4時間ごとにチェックし、インスリン投与量を適宜調整する。
Rx. 処方例
・ソリタT3号100mL/hr
・生理食塩水 49.5 mL + ヒューマリンR 50単位 (1単位/mL)
シリンジポンプを用いて持続静注。1単位/hrで開始し、表1を参考に増減する
C. 合併症の治療
基礎に感染症があればその治療を行う。脱水や高浸透圧血症による脳梗塞、横紋筋融解症、腎不全、あるいは治療に伴う心不全や脳浮腫の発症に注意する。
表1. インスリン持続静注のスライディングスケール
血糖値(mg/dL) インスリン増減量 (単位/hr)
59 以下 中止
60 ~ 79 1.0 減量
80 ~ 89 0.5 減量
90 ~ 199 そのまま
ただし、
90 ~ 149 で前値より 50以上の低下 → 0.2減量
150 ~ 199 で前値より 50以上の上昇 → 0.2 増量
200 ~ 249 0.2 増量
250 ~ 299 0.4 増量
300 ~ 349 0.6 増量
350 ~ 399 0.8 増量
400 以上 1.0 増量