GS-441524の経口薬

従来、MUTIANをはじめGS-441524類似薬の経口薬は広く使用されています。

また、現在(2023年1月)、UC Davisでは経口GS-441524を用いた2つの新しい臨床試験が行われているようです。

UC Davis Veterinary Clinical Trials

Clinical Trial Places Cat’s FIP in Remission(December 29, 2022)

1)経口GS-441524と経口remdesivirの効果の比較

2)経口GS-441524単独と経口GS-441524単独+間葉系幹細胞の効果の比較

 

 

しかし、実際にはGS-441524を経口投与した場合、消化管からの吸収効率、肝臓・消化管での代謝(初回通過効果)の影響を受けるため、循環血液中にすべてが到達するわけではありません。

GS-441524の経口bioavailability(生物学的利用能:経口投与した薬物のうち、どれだけの量が全身に循環するのかを示す指標)は動物種によってばらつきがあります。

 

・マウス    39~57%

・ラット    12~33%

・イヌ     85~92%

・カニクイザル 3~8%

・ヒト     13%

Nucleoside analog GS-441524: pharmacokinetics in different species, safety, and potential effectiveness against Covid-19

Pharmacol Res Perspect. 2022 Apr;10(2):e00945. 

 残念ながらここにはネコのデータはありませんでした。GS-441524類似薬の経口薬が実際に有効であることからみると、イヌほど高くはないにしてもヒトやサルよりは良いのかもしれません。

 

と思ったら、UC Davisの論文で、ネコでGS-441524の経口bioavailabilityを検討したものがありました。

An Optimized Bioassay for Screening Combined Anticoronaviral Compounds for Efficacy against Feline Infectious Peritonitis Virus with Pharmacokinetic Analyses of GS-441524, Remdesivir, and Molnupiravir in Cats

Viruses. 2022 Nov 1;14(11):2429. 

 

この論文によると、25mg/kgのGS-441524をネコに経口投与したときの投与後24時間の血中濃度のAUC0-24 は308 µM*hでした。同じUC Davisの別の論文(Vet Microbiol. 2018 Jun;219:226-233.)で5mg/kgのGS-441524を静脈注射したときのAUC0-24 は43.8 µM*hだったので、これから計算すると、GS-441524の経口bioavailabilityは160%と非常に高値になるそうです。

また、25mg/kgのremdesivirをネコに経口投与したときの経口bioavailabilityは120%とやはり良好だったそうです。

 

そうなると、ネコに投与する場合はGS-441524で十分で、苦労して誘導体を作る必要はなさそうにもみえますので、以下は主にヒトへの投与を目的とした場合の話になるようにも思われます。

 

 

臨床的に広く使われているヒトの治療薬でも、経口第3世代セフェムの抗生物質には16~30%のものが多くあります。そのためDUなどと揶揄されることがあります。

ただし、bioavailabilityが低いからといって、それでただちに効果がないということにはなりません。リベルサスという糖尿病の薬は、ペプチド製剤のためわずか1%しかありませんが、それでも強力な作用を示します。

bioavailabilityが低くても、大量に投与すれば、有効血中濃度を得ることは可能です。しかし、吸収にばらつきがあれば、逆に高濃度になりすぎて副作用が出やすくなるリスクがあります。

 

そこで、消化管での吸収効率を上げ抗ウイルス作用を高めたGS-441524の誘導体の開発が進んでいます。

代表的なものとして、現時点でGS-616763, ATV 006, VV116の3つがあります。

Oral GS-441524 derivatives: Next-generation inhibitors of SARS-CoV-2 RNA-dependent RNA polymerase

Front Immunol. 2022 Dec 6;13:1015355. 

 

上の論文によると各薬剤のbioavailabilityは以下の通りです。

・GS-621763  :フェレット 115%

・ATV006:ラット 81.5%  サル 30.1%

・VV116:マウス 110.2%  ラット87%  イヌ 90% 

 

ただし、これらはいずれも新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の治療薬を目指したものであり、FIPに対する効果の検討はまだされていないようです。

 

 

GS-621763(本家Gilead社とUniversity of North Carolina)

Therapeutic treatment with an oral prodrug of the remdesivir parental nucleoside is protective against SARS-CoV-2 pathogenesis in mice

Sci Transl Med. 2022 May 4;14(643)

 

ATV006(中国のグループ)

The adenosine analog prodrug ATV006 is orally bioavailable and has preclinical efficacy against parental SARS-CoV-2 and variants

Sci Transl Med. 2022 Sep 7;14(661)

 

VV116(中国のグループ)

Potency and pharmacokinetics of GS-441524 derivatives against SARS-CoV-2

Bioorg Med Chem. 2021 Sep 15;46:116364. 

 

なかでも、VV116はすでに中国で新型コロナに対する第3相臨床試験が行われており、

Nirmatrelvir/Ritonavir(パキロビッド)と同等の治療効果が得られたそうです。

VV116 versus Nirmatrelvir–Ritonavir for Oral Treatment of Covid-19

NEJM December 28, 2022

 パキロビッドは、効果は高いのですが他の薬剤との飲み合わせが非常に悪くて使いづらい薬なので、VV116の早期実用化が期待されます。

 

VV116はGilead社の特許外のようですので、これが正規品として承認されて流通した場合、FIPの治療にも使用される日が来るかもしれません。